院長のコラム
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在宅医療30
早いもので9月、秋の声が聞こえ始めました。
医者の七つ道具といわれるもので、有名なものに聴診器があります。これで心音、呼吸音などの人間が発する基本的な音を聞き分けます。ただし、寝たきりでうまく座位にできない時や、患者さんが洋服をたくさん着込んで脱ぐのに時間がかかり、ついつい聞きそびれてしまうこともあります。
私は、パルスオキシメーターを七つ道具の一つにして、患者さんの血中酸素濃度、脈拍を測定します。指にはめ、皮膚を通して酸素及び還元ヘモグロビンの透過度の違いを測定するのです。これは、急性増悪の早期のサインを見逃さないためです。特に胸水が溜まりやすい患者さんは、大量に溜まっても気づかれない場合があります。往診では十分な検査ができない半面、手軽に測定できて、その異変に初めて気づくこともあります。
在宅医療29
8月、暑い時季ですね。私は終末期医療にも関わっているため、臨終に立ち会うこともしばしば。あるがん患者さんは「ただ死を待つだけなら、好きなことをしていたい」とおっしゃり、ご自分の趣味を最期迄楽しみました。また「死を迎えるのは怖いですか」と尋ねると「いや、そんなことはない」と苦痛も訴えずに立派な最期を遂げた方もいらっしゃいます。
以前、小学生から「死って、何なの?」と聞かれたことがあります。「人間は精神と肉体が合わさって生きているけど死は肉体が滅んで精神だけが生き続けることをいうのだよ」と説明しました。それは、10歳で事故に遭い、私の夢枕で最期の別れを言いに来た兄との思い出から来るものです。兄の死後、見えない力で命拾いしたこともあります。もうすぐお盆です。あの暑い夏の日から40年も経ってしまいました。
在宅医療28
7月、暑い時期がやってきました。熱中症には十分注意して下さいね。
さて、重症の患者さんの在宅医療を担当すると、どうしても緊急が多くなり、看護師さんの活躍にしばしば助けられています。これまでも診療中や、夜間の緊急時にお世話になってきました。特に夜中のご臨終でも遠くから来て働いていただけるのには頭が下がる思いです。
最近“ナースプラクティショナー”という聞き慣れない言葉を耳にします。これは米国では既に一般化されていますが、今まで医師がやっていた医療行為の一部を看護師に任せることを指します。例えば、急変した患者さんへの対応を、医師にその都度聞くのではなく、看護師の判断に任せ医療行為を行うということです。そうなれば医師の疲弊がぐっと減り、特に在宅医療では、看護師の働きが大きな力になるでしょう。
在宅医療27
6月、梅雨の時季になり蒸し暑くなりますね。この時季は、紫外線による身体の不調の訴えや、疲労から帯状疱疹を発病することもあります。ご注意ください。
先月、往診でしばしば遭遇する病として、便秘症を取り上げました。適度な運動と薬物投与で軽快しますが、認知症があると、ご自分の意思を上手く伝えられないことがあります。中には布団を取り去り、お腹を見たらカエル腹になっていたということも珍しくありません。大腸がん等による機能性イレウス、特に閉塞がない麻痺性イレウスが原因として考えられます。後者の場合、お腹を温めたりガス抜きをしますが、往診を何人も抱えていると時間に制限があります。その場合は鍼治療を試み、効果のある時があります。吐き気のツボといわれる所に皮内鍼を挿入するだけで腸ぜん動が治ることもあります。
在宅医療26
5月、爽やかな初夏の日々。長く病床に伏している患者さんにも、天気の良い日は可能な限り新緑の世界を楽しんでいただきたいと願います。
さて、往診でしばしば遭遇する病の一つに便秘症があります。点滴のみで1ヶ月も便が出ないという方も珍しくありません。ただ、それでお腹が苦しい等といった訴えがなければそのまま様子を見ています。3日ないし10日に一度という方も多いからです。
下剤は、高齢の方には塩基下剤の一種で約60年にわたって使われている便秘薬の一つの酸化マグネシウムをよく使用します。習慣性が低くかつ安全だからです。ところが使用例で高マグネシウム血症による死亡が報告されました。腎機能障害がベースに存在すると起こしやすいようです。寝たきりの患者さんには注意が必要です。「薬も過ぎれば毒となる」です。
在宅医療25
春、一年で一番うきうきとした気分になれる季節です。先月号でも触れましたが、私の父親が倒れ、現在多摩近郊の病院でリハビリを行っております。幸いなことに徐々に顔色も良くなり主治医や病院の看護師、リハビリの先生には感謝の気持ちでいっぱいです。
しかしながらこのリハビリも期間の制限があり、昔のように何年もということはできなくなりました。病院ではかなり回復したのに自宅に戻ったら、また寝たきりになってしまったという話はよく耳にします。医療費抑制政策の一環にて仕方がないと思いますが、何とも残念であります。あとは自己努力しかありません。
このリハビリが全国どこの病院でも受けられれば、日本の寝たきり患者さんは激減するでしょう。そのような国にすることが私たちの責務でもある、と私は思います。
在宅医療24
介護はされる側もする側も大変です。先月父親が倒れ、毎週埼玉の実家に帰っていました。疲労困憊してしまい、そのうちこちらも調子悪くなってしまい、ついには寝込んでしまいました。
「自宅で介護を」と国は勧めていますが、自宅での介護が辛うじて出来るのは、東京が様々な点で地方に比べて、進んでいるからかと思います。地方といっても東京から車で1時間半〜2時間の距離の所ですが、在宅療養にしてもリハビリにしても10年以上は遅れていると痛切に感じました。そのため、医者も「仕方がない」で終わってしまうのです。
リハビリを受ければ寝たきりにならないで済むかもしれない患者さんがいても、リハビリ病院がない、経済的に不可能ということでかなりの数の患者さんが、治るものも治らないのが、現状ではないでしょうか?
在宅医療23
寒さも本格的になってきました。空気も乾燥して、この原稿を書いている1月後半時点では、インフルエンザが大流行しています。また、タミフルが効かない耐性ウイルスも報告され、心配です。10年前くらいまでは、インフルエンザに罹った時は、ひたすら寝ていたものです。それが、学校や仕事があるので休めない等の理由で、タミフルを安易に使用した結果だと思います。冬になったら予防接種を受け、周囲に迷惑をかけないようにすることが大切なマナーです。手洗い・うがい・マスクが予防になると言いますが、私は診察室にいる時は、加湿器をつけてマスクを必ずしています。お陰様でインフルエンザの流行期に入っても、風邪一つひきません。マスクは大切なウイルス防御品です。患者さんのお宅に往診する時もマスクをして、迷惑をおかけしないように心がけています。
在宅医療22
新年あけましておめでとうございます。今年こそは明るい年にしたいものですね。
嘔吐を伴う感冒が流行っています。原因の一部はノロウイルスによる感染症です。昔、小型球形ウイルスといわれたもので生牡蠣からの感染が有名です。時に高齢者施設での大流行が起こり、毎年死亡者が出る等の甚大な被害が報告されています。一般的に数日間で回復しますが、寝たきりの患者さんにとって恐ろしい感染症となります。もし家族に下痢嘔吐が生じたら、高齢者には絶対に近寄らないことです。よく流水で手を洗い、吐物には触ってはなりません。
私が以前、乳幼児がよく罹るロタウイルス感染症に不注意で罹ってしまった時は、午前中トイレを往復。ついには点滴しながら診察した経験があります。子どもばかりではありません、大人もウイルスにはご注意下さい。
在宅医療21
本年も残すところ一ヶ月をきりました。寒さが増すのもこの時期ですね。
患者さん、特に在宅で療養中の方には感冒が一番の大敵です。介護をなさる方は、毎日患者さんの熱を計って、少しでも高ければ早めに主治医へ連絡して下さい。早期発見、早期治療が病の進行を抑えてくれます。また、風邪にかかったかなと思ったらマスク、手洗い、早めの投薬で患者さんにうつさないようにすることが重要です。
また一方で、ノロウイルスによる嘔吐下痢症の発生がみられます。寝たきりの患者さんにとって、嘔吐下痢は命取りになります。脱水にならないよう、水分補給は欠かさないようにして下さい。尿量が少ない時などは脱水があるのかもしれません。
最後に、インフルエンザワクチンを打つことも大切です。介護をなさる方もされる方も禁忌でなければお勧めします。
在宅医療20
本年も2ヶ月足らずとなりました。インフルエンザ予防接種はお済みですか? 特に呼吸器疾患をお持ちの患者さんは禁忌でない限り、積極的な接種をお勧め致します。
インフルエンザに罹らないようにするには、体力をつけるのも大切です。体力は栄養に左右されます。栄養摂取は、点滴で直接静脈内に栄養を投与する方法と、経腸栄養の2つの方法があります。末梢の血管から輸液を入れる場合、何度も同じ場所の血管を使用すると静脈炎を引き起こしやすいという難点がありますが、食欲のない方にはカロリーは低くても、だるさが取れ体は楽になるものです。子どもの場合、ぐったりしていても点滴が終わる頃には元気に帰っていく場合もあります。
体液のバランスを保つのは大変重要なことです。高齢者の方は、脱水になりやすく、点滴は大切な治療の一環になります。
在宅医療19
秋になり、ご自宅で療養されている患者さんにとって、大敵は感冒です。特に呼吸器疾患をお持ちの方は、11月中にインフルエンザワクチンを接種してください。
感冒の流行と共に食欲も落ちてくると、点滴が重要な役割を果たします。高齢で痩せている患者さんの場合、血管がもろくてすぐ液漏れしてしまい、点滴に30分〜1時間費やすことがあります。肥満で血管が出にくい方も同じです。ただし、これを毎日行うのは、大変な労力と時間を費やします。そんな時は、皮下輸液という、以前に一時やっていた方法があります。これはお腹、胸部などの、体動にあまり影響のない場所に直接針を刺し、時間をかけ、ゆっくりと点滴をする方法です。一時的に皮膚の膨隆、痛み、冷感を訴えることもありますが、徐々に吸収され、脱水を補うことができ、便利な治療法です。
在宅医療18
夏は、健常な人でも暑さで食欲が落ちるもので、病気で長期臥床されている患者さんはなおさらです。この食欲不振というのはしばしば医者を悩ませるものです。若い方なら点滴をしてしばらくすると回復の兆しをみますが、ご高齢者は低蛋白血症から浮腫を生じやすく、感染しやすくなります。そうなると抗生剤の投与も必要となってきます。したがって、ご高齢者の食欲不振と聞くとドキッといたします。そんな時は経腸栄養剤という手もありますが、その前に患者さんの嗜好をたずね、お好きなものを食べていただくことにしています。しかも、時間に関係なく食べたい時に食べていただき、少量ずつ試みてもらっています。消化の良いものは、例えば、おかゆ、うどん、雑炊、豆腐はもちろんですが、プリン、ゼリー、アイスクリーム、カキ氷なども食欲低下の時はお勧めです。
在宅医療17
癌末期になると痛みが強くなり、次第に苦痛を伴い、不眠が生じることがあります。このような時は、躊躇せず麻薬を用いることが大切です。しかしながら我が国の麻薬消費量は、最も消費の多い米国の1/50、フランスや英国の1/7と、先進国の中でも極端に少なくなっています (癌緩和ケアガイドブック)。このことからも、十分な緩和ケア、すなわち癌の痛みやそれに伴う様々な症状が十分にコントロールされてないことがわかります。その理由の一つとして、日本では緩和ケアの専門機関が少ないことがあげられます。英国ではがん患者の70%以上が緩和ケアを利用しているのに対し、日本では10%以下に過ぎません。では希望の療養場所は、痛みを伴う癌末期の患者さんの場合、約60%が自宅です。一方、自宅で最期を迎えたい人という人は、10%にとどまるようです。
在宅医療16
褥瘡(じょくそう)は、寝たきり患者さんにしばしば遭遇する疾患です。できやすい場所は仙骨部ですが、背骨、足首など体重が加わるところならどこにできてもおかしくはありません。
治療法は、消毒した潰瘍部分の壊死組織を外科的処置で取り除き、皮膚組織を再生させる薬を塗り、ガーゼで覆い、肉芽組織を再生させるのが一般的です。一方、ラップ療法は傷を消毒せず抗菌剤も使わず、ガーゼの代わりにラップを貼っておくだけの治療です。ラップは100円ショップでも売っている食品包装用の薄い透明なフィルムです。
一般的にラップ療法が成功する為には全身状態の良い患者さんで、皮下脂肪の浅い方は不向きです。また、閉塞性動脈硬化症による踵の潰瘍には効果はありません。日常品を使うからといっても褥瘡の治療は必ず主治医の指示に従うことが重要です。